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C1-INHの作用点とブラジキニンの役割

C1-INHの作用点と
ブラジキニンの役割

監修:九州大学病院別府病院 病院長 堀内 孝彦先生

5つの経路とC1-INHの作用点(阻害点)

生体には、1つの反応から次々と別の反応が引き起こされる、カスケード(連鎖)反応を起こす経路がいくつも存在しています。カスケード反応経路である①補体系、②凝固系、③接触系、④カリクレイン・キニン系、⑤線溶系の5つの経路は相互に深く関係しています(図)。

C1-INHはセルピン(セリンプロテアーゼインヒビター)の1つで、セリンプロテアーゼに対して阻害作用を持ちます。

補体系のC1rおよびC1s※1、凝固系の活性型凝固第ⅩⅠ因子(ⅩⅠa)、接触系の活性型凝固第ⅩⅡ因子(ⅩⅡa)、カリクレイン・キニン系のカリクレイン、線溶系のプラスミンに対して、C1-INHは抑制的に作用します(図)。

C1-INHは5つの経路すべてにおいて抑制的に作用して、各経路で活性が暴走しないよう調整しています。

※1  
C1rおよびC1s:
C1は1分子のC1q、2分子のC1rおよび2分子のC1sが集まって、1つの大きな分子として形成される。
C1-INHはC1のC1rとC1sに作用する。
図 5つのカスケード反応経路とC1-INHの作用点
図 5つのカスケード反応経路とC1-INHの作用点

【①補体系】

補体は血中に存在する蛋白質の一群で、9つの主成分(C1〜C9)があります。通常は不活性の状態ですが、抗原の侵入によってC1が活性化されると、別の成分も次々に活性化されます。このように、補体が活性化する一連の反応を補体系と呼びます。活性化した補体は、炎症の促進や病原体の排除など、生体防御に重要な作用を持ちます。

【②凝固系、③接触系】

血管が損傷されると、生体の止血機構が働きます。凝固系はその1つで、血中のフィブリノゲンをフィブリンに変換するための一連の反応です。フィブリンは、一時血栓(血小板で形成された血栓)を覆うことで補強し、二次血栓を完成させます。

凝固系には内因系と外因系の2つの経路があります。内因系の反応は、凝固第ⅩⅡ因子が血管内皮細胞以外の異物面と接触することにより活性化されるため、接触系とも呼びます。

【④カリクレイン・キニン系】

ブラジキニンをはじめとするキニン類を産生する経路です。ブラジキニンはプレカリクレインから産生されます。発痛作用、血管拡張、血管透過性亢進といったさまざまな作用を持ち、疼痛、血圧の調節、炎症、血液凝固などに関連します。

【⑤線溶系】

損傷した血管が修復されて、凝固系で形成された血栓が不要になったとき、血栓を溶解するための反応が線溶系です。線溶系では、プラスミンがフィブリノゲンやフィブリンを分解して、血栓を溶解します。

HAEにおけるブラジキニンの役割

■ ブラジキニンの作用

ブラジキニンは9個のアミノ酸からなるペプチドで、血圧を低下させ、炎症反応に関与し、強い疼痛を引き起こす物質です。また、強力な血管拡張因子でもあり、血管透過性を亢進させ浮腫を引き起こします。

ブラジキニンの産生経路はカリクレイン・キニン系です。接触系において凝固第ⅩⅡ因子が活性化すると、プレカリクレインからカリクレインが産生されます。カリクレインは血液中を循環する高分子量キニノーゲンを分解しますが、このとき遊離したものがブラジキニンです(図の“接触系”および“カリクレイン・キニン系”参照)。

ブラジキニンの受容体には2つのサブタイプ(B1、B2)があり、B1受容体は炎症または組織の損傷により誘導され、B2受容体は恒常的に血管内皮細胞などに発現しています。ブラジキニンがB2受容体に結合すると、血管透過性が亢進して浮腫が起こります。ブラジキニンは、キニナーゼ(アンジオテンシン変換酵素:ACE)、カルボキシペプチダーゼなどの分解酵素により不活化されます。

■ブラジキニンとHAE

HAEは過剰なブラジキニンにより浮腫発作が発症しますが、その機序は次のように考えられています。

健康人ではC1-INHの産生と消費は均衡状態を保ち、5つの経路もバランスが保たれていますが、Ⅰ型/Ⅱ型HAEでは、C1-INHが常に不足した状態にあります。しかし、C1-INHが全く存在しないわけではないため、非発作時には5つの経路はバランスを保ち、浮腫は現れません。ところが、外傷や疲労といった誘因が加わり、体内のどこかでC1-INHが消費されると、局所では相対的にC1-INH量が不足し、十分な機能を発揮することができなくなります。すると、5つの経路が過剰に活性化しても抑制できなくなり、ブラジキニンが過剰に産生されて、発作的に浮腫が出現すると考えられています。

Ⅲ型HAE(HAE with normal C1-INH)ではC1-INHに異常はなく、一部の患者で凝固第ⅩⅡ因子に異常が認められています。このため、カリクレイン・キニン系が常に軽度に活性化していて、過剰なブラジキニン産生が引き起こされることがわかっています。