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鑑別診断① 血管性浮腫

鑑別診断① 血管性浮腫

監修:広島大学皮膚科学 教授 秀 道広先生

ここでは、HAEの疑いのある患者さんを診たときの、
他疾患との鑑別ポイントを解説します。

⇒詳細はHAEを疑う症候

遺伝性血管性浮腫(HAE)は、皮膚症状と病歴から、比較的容易に診断することができます。

しかし、消化管浮腫や喉頭浮腫が単独で起こった場合の診断は、なかなか難しいと考えられます。

アナフィラキシーショックや気道閉塞などで救急搬送されてくる患者さんの中に、HAEの患者さんが含まれていることもあります。窒息を起こす気道浮腫の原因はさまざまですが、HAEをその1つとして常に念頭に置くことが大切です。
⇒詳細は喉頭浮腫におけるHAEの鑑別

血管性浮腫の鑑別手順とポイント

血管性浮腫の鑑別手順として、まず、一般的な浮腫と鑑別する必要があります。さらに、問診や各種検査により、血管性浮腫の鑑別を行い、HAE以外の血管性浮腫を除外します。具体的には、後天性血管性浮腫(Acquired angioedema: AAE)、薬剤誘発性血管性浮腫、アレルギー性血管性浮腫などの鑑別が必要です。

①浮腫の鑑別

まず、浮腫を鑑別する必要があります。⇒詳細は浮腫の鑑別

突発的に生じる顔面(特に、口唇や眼瞼)、四肢の限局性の浮腫がある場合、血管性浮腫が疑われます。

蕁麻疹の有無は、血管性浮腫の病型を診断するうえで重要な情報です。ACE阻害薬による血管性浮腫またはHAEは表在性の蕁麻疹を伴いません。
⇒詳細は蕁麻疹と血管性浮腫、蕁麻疹の有無からみた血管性浮腫の鑑別ポイント

②問診による鑑別

詳細な病歴、誘発因子(ストレス、外傷、抜歯、月経、運動、感染など)、薬剤摂取歴の有無、家族歴を聴取することは、血管性浮腫の鑑別に有用です。⇒詳細は血管性浮腫の分類と鑑別

③原因別の検査による鑑別

血管性浮腫は一般採血において特別な所見を示すことは少ないので、下記の表に示すような原因別の検査を施行する必要があります。

表1 血管性浮腫の原因を鑑別する検査
表1 血管性浮腫の原因を鑑別する検査

⇒詳細はHAEの検査

④腹痛の鑑別

腹痛、悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状を伴うことがありますが、急性腹症と似た症状を呈するため注意が必要です。⇒詳細は腹痛の鑑別

浮腫の鑑別

浮腫を見たときには、血管性浮腫を疑う前に一般的な浮腫の鑑別が必要です。まず、浮腫の診察のポイントは、病歴聴取と身体診察です。身体診察では浮腫の部位、浮腫の性状を判断します。

鑑別疾患は多様ですが、慢性に経過する左右対称性の浮腫、指圧痕を残す浮腫は、心臓、肝臓、腎臓などの基礎疾患が疑われ、血管性浮腫とは異なる病態です。

〜浮腫診断のポイント(図1)1)

①圧痕性か非圧痕性か?

→非圧痕性浮腫は、甲状腺機能低下症、リンパ浮腫を考慮。HAEは非圧痕性。

②圧痕性浮腫の場合は、pit-recovery time(圧痕浮腫が回復する時間)により
 fast edemaかslow edemaか?

→fast edemaでは、3ヵ月以内の低アルブミン血症
→slow edemaでは、心不全など静脈圧の上昇により起こる浮腫を考慮
※圧痕浮腫:軽く開いた3本指(第2〜4指)で浮腫面を5〜15秒ほど強く圧迫し、指を離した後に凹凸を確認する。また、pit-recovery timeを測定する。回復時間が40秒未満をfast edemaと呼び、それ以上の浮腫をslow edemaという。

図1 浮腫の鑑別アルゴリズム
図1 浮腫の鑑別アルゴリズム

血管性浮腫の分類と鑑別

■ 原因別の血管性浮腫の頻度

わが国における血管性浮腫の実態調査2)では、411例の血管性浮腫のうち原因不明の特発性血管性浮腫が最も頻度が高く全体の46%を占めました(図2)。Ⅰ型/Ⅱ型HAEが13%、Ⅲ型HAE(HAE with normal C1-INH)が2%と、HAEが血管性浮腫全体の14%を占めることが報告されています。

図2 わが国における原因別の血管性浮腫の頻度
図2 わが国における原因別の血管性浮腫の頻度

■ ブラジキニンに起因する血管性浮腫とヒスタミンに起因する血管性浮腫の鑑別ポイント

血管性浮腫は、主にブラジキニンに起因するものとマスト細胞を介したヒスタミンに起因するものに大きく分けられます(図3)。その主な違いを表2に示します。

図3 機序に基づく血管性浮腫の分類
図3 機序に基づく血管性浮腫の分類
表2 ヒスタミンに起因する血管性浮腫とブラジキニンに起因する血管性浮腫の主な違い
表2 ヒスタミン起因性血管性浮腫とブラジキニン起因性血管性浮腫の主な違い

■血管性浮腫の原因別の特徴3,4)

血管性浮腫の原因はさまざまですが、原因によって治療が異なるため、鑑別が必要です。主な血管性浮腫の特徴を下記に示します。

ブラジキニンに起因する血管性浮腫

  • 遺伝性血管性浮腫(HAE)
  • 後天性血管性浮腫(AAE: Acquired angioedema)
  • ACE阻害薬による薬剤性血管性浮腫

ヒスタミンに起因する血管性浮腫

  • アレルギー性血管性浮腫

■蕁麻疹と血管性浮腫

血管性浮腫は、真皮深層から皮下組織または粘膜組織に発症する限局性の浮腫性変化です。突然、浮腫が現れて跡形なく消える点は、蕁麻疹と似ています(表3)。蕁麻疹は主として皮膚の真皮上層に起こるのに対して、血管性浮腫ではもっと深い真皮中層〜深層で起こります。蕁麻疹は、赤みや痒みが強いのに対して、血管性浮腫では概して赤みや痒みはなく、隆起性の境界明瞭な膨疹形成はありません。腫れがひくまでの時間は、蕁麻疹では通常、数時間以内であるのに対して、血管性浮腫では1〜3日ぐらいかかります。

表3 蕁麻疹と血管性浮腫
表3 蕁麻疹と血管性浮腫

■蕁麻疹の有無からみた血管性浮腫の鑑別ポイント

蕁麻疹と血管性浮腫が併発する場合もあり、食物アレルギーや薬物アレルギーによるアレルギー性の血管性浮腫の多くは、痒みのある蕁麻疹を伴います。 一方、ACE阻害薬などの降圧薬、経口避妊薬(ピル、エストロゲン)、線溶系酵素などによる非アレルギー性の薬剤起因性血管性浮腫やHAEの場合は、蕁麻疹を合併しないのが特徴であり、蕁麻疹の有無は血管性浮腫の原因を判断するために有用な所見です。

1)
仲里信彦:浮腫.症状所見分野監修:徳田安春.今日の臨床サポート.永井良三,木村健二郎,上村直実,桑島巌,名郷直樹,今井靖,編.エルゼビア・ジャパン,2015.【2015年6月5日】作成
2)
岩本和真 ほか: アレルギー2011; 60: 26-32
3)
重篤副作用疾患別対応マニュアル 平成20年3月 厚生労働省 「喉頭浮腫」
4)
重篤副作用疾患別対応マニュアル 平成20年3月 厚生労働省 「血管性浮腫(血管神経性浮腫)」

●ブラジキニンに起因する血管性浮腫

―遺伝性血管性浮腫(HAE)

  • 表在性の蕁麻疹を伴わない。
  • 精神的ストレス、外傷や抜歯、過労などの肉体的ストレス、妊娠、生理、薬物などで誘発。
  • 機序:Ⅰ型/Ⅱ型HAE(C1-INH欠損/機能障害)、Ⅲ型HAE(C1-INH正常、病態の詳細は不明であるが、一部には凝固第XII因子の変異を認める)。
  • 後天性血管性浮腫に比べ、気道や消化管の症状を伴うことが多く、特に喉頭浮腫による気道閉塞に注意が必要。
  • 治療:発作時はC1-INH静注(点滴)、抗ヒスタミン薬は無効。

―後天性血管性浮腫(AAE: Acquired angioedema)

  • HAEとよく似ており、蕁麻疹を伴わない。
  • 機序:①抗イディオタイプ抗体産生、②抗C1-INH抗体産生によるC1-INHの消費亢進、③男性における性機能低下症などの場合がある。
  • 機序:Ⅰ型/Ⅱ型HAE(C1-INH欠損/機能障害)、Ⅲ型HAE(C1-INH正常、病態の詳細は不明であるが、一部には凝固第XII因子の変異を認める)。
  • しばしばリンパ腫または単クローン性免疫グロブリン血症などの基礎疾患がある。
  • 50〜60歳代に多い。HAEは40歳以上で初発することはまれで、その場合には後天性血管性浮腫を疑う。家族歴がない場合も後天性血管性浮腫との鑑別が必要となる。
  • 治療:原疾患の発見・治療。

―ACE阻害薬による薬剤性血管性浮腫

  • 蕁麻疹を伴わない。
  • 機序:ACE阻害薬によってACEによるブラジキニンの分解が抑制される。ブラジキニンの作用が遷延または増強し、結果的に血管性透過性の亢進をもたらし、血管性浮腫が生じる。
  • 頻度:ACE阻害薬の使用例の200〜1,000人に1例。
  • 発現時期:投与開始後1週間以内に発症することが多いが、幅がある(最短では服用1時間後、最長では6 年以上)。
  • 咽頭や喉頭に腫脹が出現することが他の薬剤性血管性浮腫よりも多く、気道閉塞のため挿管や気道切開を必要とした症例や死亡例も報告されている。
  • 治療:ACE阻害薬の投与中止(通常投与中止後72時間以内に症状は消退)、気道症状がある場合は、挿管を含めた気道確保。

●ヒスタミンに起因する血管性浮腫

―アレルギー性血管性浮腫

  • 通常は、膨疹・紅斑型の皮膚反応(葦麻疹)を伴うことが多い。
  • 頻度:ヒスタミンに起因する血管性浮腫は、HAEより圧倒的に多い。
  • アレルゲン(IgEの活性化)および特定の薬剤(ペニシリン、食物、ラテックス、昆虫など)または物理的刺激(IgEの活性化なし、温熱、寒冷、精神的ストレス、運動など)により誘発。
  • 治療:
    (1)抗ヒスタミン薬(H1拮抗薬)の内服や静脈注射(軽症の場合)
    (2)副腎皮質ホルモンの静脈注射(重症の場合)
    喉頭浮腫による気道閉塞が疑われた場合→直ちに入院し、気道確保を要する。
  • 副腎皮質ホルモンの静脈投与
  • エピネフリンの皮下、筋肉内または静脈内注射
  • 気管内挿管や気管切開